ホットフラッシュ
(汗悩み・冷えのぼせなど)

更年期症状・障害の治療法として、HRT(ホルモン補充療法)とともに、漢方薬はよく使われています。自然の植物や動物、鉱物などの「生薬」を2種類以上組み合わせて作られた伝統的な医薬品で、「当帰芍薬散」などのブレンド名を知っていれば薬局でも購入できます。作用も比較的穏やかなので「まずは自分で漢方を試してみよう」という人も多いことでしょう。
ここでは、漢方薬がよく使われる理由とともに、漢方を安全に、より効かせるための飲み方や生活習慣のコツをお伝えします。
まず、更年期症状に漢方薬がよく使われる理由を、簡単にお伝えしましょう。
「更年期症状と言えばホットフラッシュ」と思われがちですが、実際には、ホットフラッシュや動悸、不眠、イライラ感、気分の落ち込みなどさまざまな症状が重なって起こります。そして「汗は出ないけどのぼせる」「汗も出るけれど、一番つらいのは首や背中がこって頭重感があること」などと、症状の出方も気になることも人それぞれです。
このため、「頭痛には頭痛薬」「眠れないなら入眠剤」といった症状別に治療薬を考える「対症療法」では、十分に対応できないことも少なくありません。
更年期医療において広く活用される漢方薬とホルモン補充療法は、どちらも原因を改善する「原因療法」なのです。
・ホルモン補充療法(エストロゲンを補充することで症状を改善)
・漢方薬(自律神経や血流、精神面など体全体のバランスを整えることで症状を改善)
漢方医学では、病名だけではなく、その人の体質や体力、冷えの有無、精神状態などを総合的に判断する「証(しょう)」という考え方を重視します。そして、自律神経や血流、精神面など体全体のバランスを整えることで、体質改善や自己治癒力の向上を目指します。そのため、「検査では異常がないのに体調が悪い」というように、更年期特有の不定愁訴にもよく使われているのです。
更年期医療で特によく使われる漢方薬は、「当帰芍薬散」「加味逍遙散」「桂枝茯苓丸」の3種類で、「更年期の三大漢方」と呼ばれています。いずれも、婦人科でも処方されますし、薬局でも販売されています。迷ったら、まずこの3つのうちのどれかから始めてみるのもいいでしょう。
◎当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)
冷え性で疲れやすく、やせ型から中等度の体格、貧血傾向のある人に用いられます。めまい、動悸、肩こり、冷え性などの症状がある場合に適しています。女性の健康を支える代表的な漢方薬として広く使用されています。
◎加味逍遙散(かみしょうようさん)
比較的疲れやすく、イライラや不安感が強い人によく処方されます。ほてり、のぼせ、頭痛、肩こり、倦怠感など、多彩な更年期症状に対応できることが特徴です。
◎桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)
体力が中等度以上で、比較的がっちりした体格の人に向いています。血液のめぐりが悪いことを意味する「お血(おけつ)」体質の改善を目的に使われ、のぼせ、肩こり、頭痛、冷えなどに効果が期待されます。
★その他によく使用される漢方薬
さらに、更年期症状に使用される漢方をいくつかとりあげておきましょう。
◎温経湯(うんけいとう)
体力がやや低下した人の冷えや乾燥傾向を改善する漢方薬です。不正出血、頭痛、不眠、腰痛などに用いられ、更年期女性にも処方されることがあります。
◎半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)
不安感や抑うつ気分、のどに何かが詰まったような違和感がある人に使われます。ストレスの影響が強い更年期症状に適した処方です。
◎抑肝散(よくかんさん)
イライラや神経過敏、不眠など精神症状が目立つ場合に用いられます。更年期以降の女性で、怒りっぽさや眠りの浅さが続く場合に選択されることがあります。

漢方薬は、自然の植物や鉱物由来だから安全という考え方には、全面的に賛成はできません。
副作用が全くないわけではないし、体質に合わない場合には効果が得られず、むくみや胃の不快感、まれに肝機能障害などが起こることがあります。
また、同じような更年期症状が起きている人が飲んで効き目を感じていたからといって、それが自分にも合うとは限りません。症状が似ていても、体質が違う場合があるからです。
一般的にドラッグストアで販売されている漢方薬でも、自己判断ではなく薬剤師の指導を受けることが大切です。
漢方薬の効果は穏やかといわれますが、証があっていれば数日から2週間程度で効果を感じることができます。むしろ、2~3カ月飲んでみて効果が感じられない場合には、いったんやめて医師や薬剤師に相談することも大切です。
また、市販の漢方薬を使用する場合でも、服用中の薬がある場合は医療者へ相談しましょう。特に、降圧薬や睡眠薬などとの飲み合わせ、2剤以上の漢方薬の併用には注意が必要です。
漢方薬は症状の背後にある体質改善を目的としています。ということは、生活習慣の見直しも重要です。体を温める漢方薬を服用しているのに、エアコンの効いた部屋で冷たい飲み物を飲むなど、体を冷やす生活をしていたら、効果が出なくてもしかたないかもしれません。
バランスの良い食事をとり、睡眠時間もできるだけ十分にとる。適度な運動で血流をよくする。飲酒や喫煙など刺激物の摂取を控えることも、体質の改善には重要です。
基本的には、漢方薬は食事前に温かいお湯で服用すると、吸収がよいとされています。特に冷えや肩こりが強いときは、熱めのお湯に溶かしてゆっくりと飲む方法もすすめられています。
更年期は誰もが迎えるライフステージですが、症状の現れ方は人それぞれです。漢方薬は、一人ひとりの体質や不調に合わせて選ばれるオーダーメイドに近い治療法です。自分に合った漢方薬と生活習慣の見直しを組み合わせることで、更年期をより快適に乗り越える手助けとなるでしょう。